2010 年 5 月

日本文教出版「高校美術3」

今回は日本文教出版というところの教科書です。



「高校美術3」。奈良美智の絵が表紙が目を引きます。光村図書の教科書に比べるとスッキリした印象。





巻頭にはおなじみゴッホさんです。ゴッホだけ見開き×2で4ページ使って紹介されている。ゴッホ好きだなー。日本においての芸術家像というのはゴッホのイメージなのかもしれませんね。





その次のページに奈良美智。ドイツ留学前の過去作品が2枚掲載されていてなんだか新鮮。





手塚治虫。漫画だけでなく、中学時代の自画像も掲載されています。しかし見開きの右ページが、まるまるブッダの一コマで使われているって大胆…。






ジョージア・オキーフ。この教科書で掲載されている女性はオキーフと草間彌生の2人です。





掲載作家はゴッホ、奈良美智、横尾忠則、池田満寿夫、草間彌生、亀倉雄策、手塚治虫、イサムノグチ、岡本太郎、オキーフ、ジャコメティ、上村松園、松本竣介、パウルクレー、モネ、北斎、コルビュジェ、ミロ、ピカソ、ダヴィンチ。





監修者は嘉門安雄と平山郁夫。この教科書は平成20年に検定を受けていますが、いまとなっては監修者のおふたりはどちらも故人です。嘉門安雄さんはゴッホに関しての著作があるので、そのこともあってゴッホが巻頭に取り上げられているのでしょうね。

また、特徴的なの著作者の肩書きです。光村図書は「彫刻家」「画家」「ジャーナリスト」「評論家」「美術史家」といった職種の肩書きだったのに対し、日本文教出版ものは「学長」「教授」「准教授」「教諭」「講師」などアカデミックな文字が目立ちます。あと光村図書では深沢直人が関わっていたけれど、こちらは原研哉が関わっている。基礎デ恐るべし。

日本文教出版の教科書は、光村図書の教科書とはまったく違う編集のしかたでした。作家ごとに見開きページを使って紹介されています。図版は大きく、ゆとりをもって掲載されています。キャプションの文字は大きめです。美術についてというよりは、創作活動を通した精神性とか平和主義を語っているような文章だと個人的には思いました。

でも、いま最後に日本文教出版のホームページを調べたら他の学年の教科書の取り扱い作家も見れますね。このような作家ごとにならべる編集は高校3年生の教科書だけっぽいです。高校3年生向けの教科書だけを掲載して変に誤解を与えてもマズいので、高校1年、高校2年のものも後々紹介したいですね。

光村図書出版「美術II」

引き続き、光村図書出版の「美術II」の教科書です。
これは平成15年度に検定済みで、発行されたとすれば平成16年度以降になるのだと思います。しかし、サンプルなのか印刷と発行日が記入されていません。


表紙は伊藤若中の『鳥獣花木図屏風』。やっと日本人の作品が表紙!と思いつつもプライスコレクション収蔵なんですよね。





編集者には永原康史さんや深沢直人さんが関わっています。前の2冊よりもデザイン寄りのスタッフ。




絶対深沢直人が監修していると推測される『記憶に繋がるかたち』というページ。深沢直人やジャスパーモリソンの作品などが紹介されています。(光が写り込んでいてすみません…。)





『配置とバランス』のページ。左ページは構成の説明。右ページにはハンスアルプとブロックマンの作品。





その次のページは『色を感じる』というページ。アルバース、大貫卓也、佐藤可士和とデザイン的な視点からの説明。




さらに『ポスターの仕掛け』というページもある。普通、教科書のデザインに関するページって後ろのほうに掲載されてそうだけど、わりと巻頭に掲載されてます。勝井三雄、福田繁雄、原研哉、永原康史の作品が掲載されている。




ここではデザインについてのページばっかり掲載しました。が、やはり全体を通して「II」はじゃっかんデザインについて詳しく説明されている印象でしたね。

他の出版社の教科書はわかりませんが光村図書出版の美術の教科書は、西洋美術や日本美術、または過去や現代といったカテゴリ分けをせずに並列的に作品を扱う傾向にあるのが面白いと思いましたね。前にも書いたように、美術手帖やBRUTUSのように興味とそれなりの知識があれば楽しく読めるでしょう。逆にいえばビジュアル重視で歴史性はあまり感じ取れない。作家の名前や時代がバラバラなので、高校生にはよく理解できない気もします。(むしろ美大生には良い教科書でしょう。)

高校の美術の授業自体がない学校も多いと思うので、この教科書をもっている時点で多少なりとも美術に興味があるだとか、美術コースを専攻しているだとか、美術好きであることが前提の教科書なのかもしれません。美大受験をする高校生が、ふとページをめくるとなにか発見できるとは思います。

また、たとえば画材の扱いなど、テクニック的なこともほとんど触れられてないですね。最低限油彩、粘土、ポスターカラーくらいの使い方は掲載されていてもいい気がしますが。まあいろいろ事情があるんでしょう。結局美術の教科書はカタログというか、副読本というか……美術の授業で教科書なんてまず使いませんよね。新学期に買わされて、そのまま開かずに1年が終る、みたいな。

有名な人たちが著作者として名前を並べているこの教科書が、実際どの程度美術教育の現場で使用され、役に立っているのでしょうか。気になります。

光村図書出版「美術I」

前回、違う出版社の教科書を載せると書きましたが、光村図書出版「美術I」「美術II」の教科書も見つかったのでまずはそちらから。





前回の「美術III」と同じく、こちらも平成17年度版です。表紙はリキテンスタイン。自分が中高生のときだったら特になにも思わなかっただろうけど、あらためてみると美術の教科書の表紙にリキテンスタインやホルツァーがチョイスされているのは不思議というか意味深な気もしてきますね。





やはり日本においてゴッホは特集されるべき画家のようです。





著作者でもある野田弘志先生の絵が大きく掲載されています。



『光が演出するドラマ』というページ。レンブラント「夜警」と大友克洋「AKIRA」が並行的に掲載されていて面白いなと思いました。AKIRAの絵の下には美術作品のように〈25.7×17.9cm〉というキャプションがつけられています。





『流れる時間を一枚に』というページ。ホックニーとデュシャンなどを載せている。いい作品載せてるなあ…。





『メッセージの表現』というページ。いっしゅん「秋山孝!?」と思ったらグラピュスだった。





『言葉と芸術』というページ。マグリットにコスス。自己言及的なコンセプチュアルアートを高校1年生に感じさせようとしています。このページは観音開きになっていて、開くと世界美術歴史年表が現れる。





主な著作者は変わらず。
まあ特に学年ごとに大きな差はないっすね…。どうせだから2年生用のもアップしちゃうけど。

光村図書出版「美術III」

自分にとっての「アート」って、結局のところだいたい80年代〜90年代初頭のアメリカの現代美術が基準になってる。作家だといちばん影響を受けているのはジェニー・ホルツァーです。

なぜって、自分がいちばん最初にすごいなって思った「アート」が彼女の作品だったからってだけの話なんですけど。最初に見たものを親だと思う鳥の摺り込みのように、おそらく一生、ホルツァーの作品が自分にとっての「アート」の基準だということは変わらない気がする。(ちょっと前にICCに行ったとき、床に埋まっているホルツァーのマルチプル作品のLEDが劣化していたのでどうにかしてほしい。)






で、まあそんなことを考えながら仕事してたんですけど、そこらへんに落ちていた美術の教科書をふとみてみたら表紙がジェニー・ホルツァーでした!これは光村図書出版「美術III」という、高校3年生用の美術の教科書です。なんつーか、日本の美術の教科書の表紙がグッゲンハイム美術館で展示したときのホルツァーの作品って…スゴい。
せっかくなんでちょっと内容をお見せしますね。平成17年度のものなので、ちょっと昔です。





『美術館で作品と出会う』というページ。東京都国立博物館が紹介されている。前のページでは国立西洋美術館が紹介されています。西洋美術のほうがページとしては先にきてるんですよね…。





『温故知新』というページ。『創造的行為の無数の連鎖が美術の歴史』ということで、左ページでは紀元前に制作されたラオコーン像・ルネサンス後期のミケランジェロ・近代のロダンの彫刻を並べている。右ページではピカソのアヴィニョンの娘とアフリカの仮面を並べている。さらに北斎とジェフウォールとか、辟邪絵と村上隆といった現代美術作家も並べている。





『生活を総合的にデザインする』というページは「ロシアアヴァンギャルド」「デ・ステイル」「バウハウス」などの近代デザインについてさらっと触れられている。写真はないけど、そのほかのページでは写真やアニメーション、本の装丁、建築にも幅広く触れられています。ちなみにダブルネガティヴスも写真付きで掲載されていてビビる。







まとめとして草間彌生、安藤忠雄、ひびのこずえ、岩井俊雄のインタビュー。高校生向けに喋っていることもあって、作家たちが幼少期や青年期のエピソードを話している。なかなか興味深い内容。





巻末は唐突にモエレ沼公園の写真。しかも地図付き。





著作者はこんな感じ。野田弘志、勝井三雄、酒井忠康、澄川喜一…関与している作家はシブい重鎮たちです。
澄川喜一さんは安藤忠雄とともにスカイツリーのデザインに関わっていますね。おそらく実質的に編集していると思われる人たちはその人たちの下に記名されている学芸員や美術史家でしょうか。

この教科書は新旧・古今東西の作家/作品をたくさん集めてテーマごとにソートしたという編集ですね。美術手帖やブルータスの「現代美術入門」を読んでいる印象。
でもこれ、ある程度知っている人がみたら面白いけど、知らない人がみたら本当によくわからないと思う。じっさい高校生にこれ配ってどうするんだっていう…。説明する人がいれば、美術入門としては悪くないとは思うけど。

あ、あともう一冊違う出版社の美術の教科書もあるんで、そっちも後ほどアップします。

Ryan McGinley「Everybody Knows This Is Nowhere」


Ryan McGinleyの写真集「Everybody Knows This Is Nowhere」が届きました。
大阪のスタンダードブックストアから10500円で購入。高い。でもオークションや他の洋書屋だと2万円弱が相場だから、そういう意味では安く買えて満足してます。ふだん、仕事の資料として本やカタログを買ったりするけれど、これは久しぶりに完全な趣味で買った本です。

Ryan McGinleyは最近発売された「HUGE」「EYESCREAM」「美術手帖」など、日本の雑誌でも特集が組まれているのでご存知の方も多いでしょう。自分はこの最新作である「Everybody Knows This Is Nowhere」というシリーズをTumblrで見てから一気にファンになりました。

この本はこんな内容です。



内容をちょっと確認するだけならyoutubeで全ページ見ることができてしまうという。現代において(物質的な)本を買うという行為はいったいどのような意味があるのでしょうか…!あとは作家のサイトでも過去のシリーズも含めて作品をみることができますね。

モデルは本当にみんな普通っぽい子たち。
中性的なモデルもいて、いまいち男なのか女なのか判別つかないのもある。全員がグラビアモデルのように美しい顔や体をしているわけでもない。大人とも子供ともいえない年齢の、秘めた危うさが伝わってきます。ガス・ヴァン・サントの世界観に近いかも。写真がカラーではなく白黒っていうところが生々しさを和らげています。