2010 年 5 月

川崎市市民ミュージアム 『横山裕一 ネオ漫画の全記録:「わたしは時間を描いている」』


横山裕一の展覧会をみるために川崎市市民ミュージアムに行ってきた。
武蔵小杉駅からバスで20分くらいです。
この展示ヤバい。時間があれば是非見ることをおすすめします。

現代美術の分野では他に似たものがなく、唯一無二の存在です。作品の魅力を言葉で説明するのが難しい。絵画や漫画のほかに高校生からつけてる日記とか昔の絵や友達の会話を録音したカセットテープも展示してあったけど、すごい変な人だと思った。

展示空間はそこまで大きくはないけど、なかなか面白い空間。(展示空間の設計はトラフ)いかにも迷ってくださいといわんばかりだったけど、私は本当に迷いましたね。方向感覚がわからなくなった。あとは企画展なのに写真撮影が全面的に可能、条件を満たせばブログなどに掲載してもOK、という日本では珍しい展覧会なのでカメラを持っていくといいかも。

5月11日に発売される服部一成がデザインした図録は600円(送料120円)。カタログは出来上がったら発送してくれるそうです。楽しみ。ちなみに上記のポスターも服部一成のデザインです。

会期は6月20日まで。




川崎市市民ミュージアムは、場所のアクセスがいいとはいえないし、ゴールデンウィーク中にしては地元っぽい人の姿もまばらだったし、照明がとても暗かったし、空間を持て余していて、なんだかいい税金の使われかたされてなさそうだなあと思った。家に帰ってからgoogle先生に「川崎市市民ミュージアム 税金」で問うてみたら、川崎市市民ミュージアム館長がインタビューされている2006〜2007年ごろのこんなサイトをみつけました。

実際に市がどういう意図でこの館を作ったのかと云えば、極端な言い方をしますと、すごく曖昧なんです。これは時代的な話になりますが、バブルの時代もそうですがその前の時代から、ハコがあっても中身が追いつかない状況で後のことを考えず、ランニングコストがかかるものを平気で作ってしまったといいますか。ですから 「何のために、誰のために、どうしたいのか」 ということが不明確なままなんですよ。

15年度に市の包括外部監査が入り 「民間であれば倒産状態、再生委員会を設置して基本テーマやコンセプトの見直しや収支の考え方などを検討すべき」 との厳しい指導を受けました。

と赤裸々に内情を明かしてます。
税金で運営される美術館の役割はどうあるべきか、という問題について考えさせられます。

オペラシティアートギャラリー「猪熊弦一郎展 いのくまさん」


初台の東京オペラシティーアートギャラリーで「猪熊弦一郎展 いのくまさん」を見た。

この展示を知ったときにちょっと驚いた。というのも、3年ほどまえエルネスト・ネトの個展を見るために香川の丸亀市猪熊弦一郎現代美術館まで足を運び、そのときに常設展でいのくまさんの作品をみたのだけど、いまいちピンと来ず…。ぶっちゃけると、そんなにメジャーな作家だとは思ってませんでした。

東京美術大学(現在の藝大)を卒業して、渡仏してマティスに絵を習っていたりしたんですね。なにより、三越の袋と包装紙のデザインを手掛けていたことを初めて知りました。この袋、小さいときに横浜のおばあちゃんの家でよくみたから馴染みがあった。見るだけですごい懐かしい気持ちになる。もうおばあちゃんも死んじゃってるし、横浜の三越も閉店しちゃってるけどね…。

三越のホームページによると、「包装紙のデザインを画伯に依頼し、出来上がった作品を受け取りにいったのは、当時三越宣伝部の社員だった漫画家、やなせたかしさん」だそうです。そう、アンパンマンのやなせたかし!しかも包装紙の「mitsukoshi」のロゴはやなせたかしが描いたそうです。

「3年前いまいちピンと来なかった人の展覧会をなんでわざわざ観に行くんだよ」と思われるでしょうが、それは今回の展示ポスターに惹かれたからです。グレーにピンクがオシャレだし、ヨコに潰れた書体もなんともかわいい。おれが知ってる猪熊弦一郎とは違う猪熊弦一郎の展覧会かと思った。だってたしかにグレーにピンクのような絵もあるけれど、猪熊弦一郎の絵の印象は自分の中では原色&多色っていうイメージだったから。よくこの色の組み合わせを使ったなあ、と。

今回のグラフィックデザインは大島依提亜さんという方の仕事だそうです(同じ大島ですが、私はなんの関係もないですよ)。この味のあるフォントも大島さんが独自に制作したらしい。大島さんは「かもめ食堂」や「百万円と苦虫女」などの映画のパンフも手掛けているデザイナーだそうです。

会場デザインにはボール紙と透明なビニールシートが多用されてる。絶妙な安っぽさが気張ってなくてイイ。立体作品を透明なアクリル(?)の半球でカバーする見せかたは、小さくて繊細な作品のガードにもなるし、泡に包まれてるような見た目も可愛らしかった。

感想としては、猪熊弦一郎の作品は丸亀でみたときよりも違った切り口でとても楽しめました。その背後にはデザインの力がかなりあると思います。ミッフィー展もそうだったけど、みんなが知っているもの、ちょっと古いもの、そういうものにデザインはあらたな息吹を吹き込める。あらたな価値や魅力を提示できる。やっぱ作品の見せかたって大事だなと思った。

予習したい人や会場に足を運べなさそうな人はこのサイトが会場風景も掲載されており、詳しいです。7月4日まで。

東京都庭園美術館「ロトチェンコ+ステパーノワ ロシア構成主義のまなざし」


目黒の東京都庭園美術館に「ロトチェンコ+ステパーノワ ロシア構成主義のまなざし」を観に行きました。初めての庭園美術館。展覧会をみる人も庭園だけを利用する人も同じチケット売り場に並ばなければならず行列ができてました。でも販売する窓口はひとつだけ、みたいな。

前回のミッフィーの記事で書いたデ・ステイルは1917年頃にオランダで起こった芸術活動ですが、ほぼ同時期にロシア構成主義も生まれています。20世紀初頭の芸術運動はヤヤコしいですね。ピカソがキュビズムを考案し、カンディンスキーが抽象絵画を描き、第一次大戦が起こって、マレーヴィチがシュプレマティズムを生み出し、オランダでデ・ステイルが発刊され、ロシアアヴァンギャルドが起こって、大戦が終って、バウハウスが出来ました…. までわずか10年ほどですからね。どこでどういう風に人が繋がって、どこまでお互いに影響を及ぼしていたのか自分にはちょっとわからんですね。毎回中途半端な知識ですいません。

さて「ロトチェンコ+ステパーノワ ロシア構成主義のまなざし」です。ロトチェンコの名前と作品はロシア構成主義の作家の名前としてなんとなく知っていましたが、ステパーノワの名前はまったく知りませんでした。ステパーノワはロトチェンコの妻で、布地や衣装のデザインをしていたそうです。今回の展示ではステパーノワの作品も飾られています。ロトチェンコの作品数よりも少なめですがどの作品からもセンスが感じられます。

ロトチェンコの広告ポスターは構成的でカッコいいんだけど、あらためて図録を見ると写真もいいですね。白黒写真の時代だから光の演出と効果が考えられている。日常のなかに潜むリズムやパターンを強い遠近法で撮影した構成的な写真もいいし、意外なのはポートレート。ほんとに普通のポートレートなんだけど、その写真も撮影されている人物が魅力的なんですよね。


とつぜん受験の話になるけど、およそ過去100年間のグラフィックデザイン史をきちんと勉強すれば多摩美のグラフィックデザイン学科の平面構成はイケると思う。とりあえず100年間ぶんの作品を知って、そのエッセンスを自分なりに理解しようとすれば、少なくとも何が求められているかは理解できるはず。予備校にいると実制作だけでなかなか知る機会がなかったりすんだよね….。

東京都庭園美術館での展示は6月20日まで。そのあとは滋賀と宇都宮に巡回するみたいです。

松屋銀座「ゴーゴーミッフィー展」



松屋銀座で「ゴーゴーミッフィー展」を観てきました。55周年だからゴーゴー、なんですね。へぇ。

以前このブログのグラフィックデザイン学科の卒業制作展の記事で《鑑賞者は、作品を言い表わす言葉として「かわいい」「きれい」「これ好き〜」以外の語彙も勉強したほうがいい。》みたいな偉そうなことを書いたんですけど、この展覧会をみてる最中、自分はただひたすら「かわいい〜」しか言葉が出てこなかったです!申し訳ございません!



〈高校生向けの説明〉
ミッフィーの生みの親であるディック・ブルーナはオランダの人です。オランダといえばレンブラントやゴッホなどの画家が有名ですが、デザインという視点では20世紀初頭に起こったデ・ステイルと呼ばれる芸術運動は無視できません。

デ・ステイルの中心となった人物のひとりにモンドリアンがいます。(ちょうどこのブログでも触れられていますね。ネタをパクってるわけではないですよ。)そうです、赤・青・黄に水平垂直の黒い線のあの絵…。この抽象表現はその後のデザインに大きな影響を及ぼしました。

モンドリアンは赤・青・黄に白と黒を足した5色で絵を描きましたが、ミッフィーの絵本はブルーナ・カラーと呼ばれる6色に、白と黒を足した8色で描かれているそうです(例外もあるのかもしれませんが、ちょっとわかりません。)

ブルーナは画家を目指し、グラフィックデザイナーとしての仕事を重ねながらミッフィーを描いたそうです。ブルーナの絵をみてもデ・ステイルの影響はあきらかですね。ミッフィーの絵本はかわいいだけでなく、シンプルな線と色で構成されており、グラフィックデザインとしてみても完成されていると言えるでしょう。

そしてブルーナはマティスの影響を受けているそうですが…話が長くなりそうなんで各自で調べてください。
〈/高校生向けの説明〉



というわけで、デザイン的な切り口で面白かったです。アートディレクションは祖父江慎だし、作品の額縁は深沢直人のデザインだし、ぬいぐるみはミナペルホネン。何気に日本のデザインの力を集結させている展示です。

連休も相まって子供連れが多かったけど、作品の飾ってある高さは子供の目線にはちょっと高い気がした。子供向けと思いきや、これは大人向けの展示ですね。最後の物販コーナーは大人(おもに女性)たちが両手にグッズを持って行列してますから。ていうか俺(アラサー独身男子)も思わずカタログ(良い出来だと思われます)とクリアファイルとガチャガチャ買ったしね。お金に余裕があればマグカップとかぬいぐるみとかもっと買いたかったよね。これ、美術展のグッズの売り上げとしてはすごい金額になるんだろうなー。しかもこれから1年以上かけて全国巡回するみたいだし。

個人的には祖父江慎のバースデーカードがすげー格好良かったのと、初期ミッフィーの奇形っぷりにむしろ惹き付けられた。
                 ゆるい!


松屋銀座での会期は5月10日(月)まで。
巡回先をみると、関東地方は9月にそごう美術館(横浜)でもやるみたいです。あとは名古屋・神戸・広島などなど、帰省や旅行がてら見るチャンスはありそうですが…。早くみたい人は急いだほうがよろしいかと。オヌヌメです。

TDCなど


そういえば先月はggg(銀座グラフィックギャラリー)でTDC(タイプディレクターズクラブ)の展示もみてました(すでに会期は終了)。気になった作品のデザイナーの名前はメモに控えておこうと思って、「いいな」って思った作品のクレジットみたらけっきょく葛西薫の作品だった。

ところで以前に書いた、多摩美のグラフィックデザイン学科の卒業制作展の記事

「アートって何ですか?そこが問題だお〜。。。ほんとうはね。このままゆくと日本グラフィック展出身の人がアートとグラフィックを混同して、外国の作家作品を模倣して行く、、というそう言う方向には行ってほしくないなぁ。」

という村上隆がTwitterにポストした発言を引用しました。その影響でこんな古本を購入しました。買ったのはひと月ほど前なんですが、最近やっと開いた次第であります。


「アートウィルス ART VIRUS 日本グラフィック展1980〜1989」
これはいまの時代に読み直すとなかなか面白いですよ…!

西欧のアート界で起こった1980年代のニュー・ペインティングの流れのなか、その潮流に乗って日本でもイラストレーターや画家たちが大量にデビューし、その人たちが現在でもデザイナーとして活躍してるんですよね。

この本のなかにはニュー・ペインティングの旗手ともいえるジュリアン・シュナーベル「っぽい」作風の人とか、ゲオルグ・バゼリッツ「っぽい」作風の人とか、そりゃあもう大量に載ってますよ。

その後、西欧の美術史のなかでニューペインティングはひとつの歴史のムーブメントとして過ぎ去ったけど、日本の中でニューペインティングはグラフィックデザインとして奇妙に生き残り続けている。ニューペインティングブームの時代に、海外の作家/作品の表面を真似てデビューした人たちがグラフィックデザイナーとしてのキャリアをつんでいる。いまの日本のグラフィックデザインが国内海外の作品を問わずパクリや模倣を繰り返すのも….アートの表層をかすめ取り、日本でグラフィックデザインに転用するのも….この時代の影響があるんじゃないでしょうか。
(このへんはクソ適当な書きかたしてるんで、信じないほうが賢明です。もうちょっと勉強します。)

たにぐちくんがカオスラウンジを「80年代だろ」&「デザイナー集団」っていってたのはニューペインティングとグラフィティアートの文脈をふまえたうえでかな。この本のことについてはまた改めて書きたいです。